Column Vol. 10Tシャツづくりは原料から
生地に使われている綿の産地と特徴とは?
Tシャツは綿を材料とした糸を編み込んだ生地からできあがりますので、綿の品質がTシャツの品質に大きく影響を与えます。
綿の原料となる綿花は海外で栽培されますが、低価格で高品質なTシャツを作るためには、綿花がどこで栽培されたのかということが非常に重要です。
今回は、産地別の綿花の特徴や、Tシャツにはどのような綿花が使われているのかということをご紹介します。
1. 綿花の産地によって個性もさまざま
同じ食材でも産地によって味が異なるように、綿花も産地によって風合いや肌ざわりなどの品質が異なります。
綿花は育つ土地の気候や水、風土あるいは収穫方法によって性質がまったく異なり、ひいては綿の品質を大きく左右します。
具体的には
・グレード(色合いや不純物の多さ・カビの有無・害虫の影響)
・ステーブル(繊維の長さ)
・キャラクター(成熟度・強度・均整度)
という3つの要素で綿の品質が決まりますが、それだけではなく、産地によって綿花そのものにさまざまな個性があることは意外と知られていないかもしれません。
2. 生産地別の綿花の特徴
主に中国やインド、アメリカ、パキスタン、オーストラリアなどが綿花の産地国として知られています。
ここからは、どの国の綿花にどのような特徴があるのかを解説していきます。
- 2-1インド
- モンスーンなど気候の変動でかつては綿花の収穫量が不安定だったインドですが、遺伝子組換え技術を導入して綿花の増産に成功。2020年現在、中国・アメリカを追い越して世界最大の生産量を誇り、そのシェアは約24%までのぼります。
ふとん綿用や脱脂綿用、繊維長が長い高級綿用の綿花など、ありとあらゆる綿花が栽培されています。
インドでは「手摘み」という人海戦術で人が綿花を収穫する方法が採用されることが多いため、比較的コストを低く綿を作ることができます。
ただ、麻の袋に詰めて出荷されるため、夾雑物(きょうざつぶつ:麻袋の繊維片や落ち葉などのゴミ)などが入りやすく、夾雑物を取り除く「混打綿(こんだめん)」という工程は欠かせません。
- 2-2中国
- 世界の工場として知られている中国は、かつて綿花の生産量も世界一でした。近年ではインドに抜かれ、生産量世界第二位となった中国も、約10年前は生産量が約700万トン、世界シェア約30%を誇りました。
主に黄河流域・揚子江流域・遼河流域・新疆ウイグル自治区で栽培されており、特に新疆ウイグル自治区で栽培される綿花は繊維長が長く、世界三大高級コットン「新疆長繊維綿(しんきょうちょうせんいめん)」として知られています。
中国においても手摘みで収穫されることが多いため、コストを抑えて綿を作ることができます。
- 2-3アメリカ
- インド、中国に次いで綿花の生産量が多いのはアメリカです。世界シェアの13%を誇っていています。アメリカで生産される綿花で作った綿は中国綿に比べて油分が少なく、シャリ感(乾いた肌ざわりで硬めの質感)が出るため「米綿(べいめん)」「U.S.コットン」などと呼ばれており、Tシャツ愛好家の中でも人気が高い綿です。
アメリカでは綿花は農作物の中でも特に重要視されていて、綿花生産国輸出量の30%のシェアを誇っています。
そのため、国策として農家の保護や輸出維持拡大などを行い、綿輸出大国の地位を維持しています。
アメリカでは中国やインドなどと異なり、綿花を収穫機で収穫する「機械摘み」が主流となっています。
人件費が高いため、人の手で綿花を収穫するよりも、機械で収穫したほうが低コスト、高効率なのが理由です。
また、手摘みのように麻の収穫袋を使わないため、夾雑物が入りにくいというメリットもあります。
特に繊維長が長い「スーピマ綿」は世界三大高級コットンの一つとして有名です。
- 2-4パキスタン
- 主に布団綿用に使われる綿花の栽培が行われており、他にもネル、キャンバス、脱脂綿などに使用される綿花も多く生産しています。
70年代には安価なパキスタン産の綿で作られたTシャツがアメリカで多く流通し、古着愛好家の中では「パキ綿」という愛称で知られています。
- 2-5オーストラリア
- 多くの綿花産地国は北半球にありますが、オーストラリアは南半球にあるため、北半球では春にあたる時期に綿花が収穫されます。
他の綿花生産国が端境期(はざかいき)のときに輸出できる点が大きなアドバンテージです。
生産・管理・流通など品質面が安定していて、市場価格は米綿よりも高値がつく傾向があります。
アメリカの綿花と同じく、機械摘みで収穫が行われているので、夾雑物が混ざりにくいのに加え、粘着性が低く繊維長も長いため、質感が良くきれいな生地が作れます。
3. Tシャツに使われる綿はどこの国のものが多い?
同じ綿花という材料でも、国によって個性があることがおわかりいただけたかと思います。
それではみなさんが普段着ているTシャツにはどこの綿が一番使われているでしょうか?
その答えは中国です。綿花自体のコストが低いのに加え、地政学的な理由も背景にあります。
Tシャツを製造する工場は中国や東南アジアに多いので、中国産の綿花を使えば輸送コストも削減でき、みなさんもリーズナブルな値段でTシャツを買えるというわけです。
特に中国国内でも、沿岸部で栽培された綿花をよく使います。
前述のとおり、中国綿は手摘みで収穫を行うことが多いため、夾雑物が入りやすいという特徴があります。しかし、だからといって中国の綿の品質が悪いというわけではありません。
綿花は麻袋にギュッと圧縮されて原綿(げんめん)として工場に入荷されます。その後、高温多湿の部屋で一晩寝かす「開俵(かいひょう)」、原綿を解きほぐす「混打綿」という工程を経て、原綿から糸を作る工程に入っていきます。この「混打綿」という工程で夾雑物もきれいに取り除かれます。
ときには1mm以下の細かい夾雑物が混ざってしまうこともありますが、染色の際に、その部分だけ染料が染まらない「飛び込み」という目で見える形でわかります。
そのため、夾雑物が混ざった生地は染色後のチェックで取り除かれ、みなさんの手元には高品質なTシャツのみをお届けできるというわけです。
一方で、Tシャツの個性を出すために米綿やオーストラリア綿を使うこともあります。
例えば米綿はシャリ感が出るということを先ほどご説明しました。
そもそもTシャツはアメリカで発展しました。もともと海軍で下着として使われてきて、第二次世界大戦後にジーンズとともに労働者の中で広まり、やがてファッションアイテムとして普及してきたという歴史があります(くわしくは「Tシャツの歴史|発祥から普及まで」)。
「Tシャツ=米綿」ということで、現在でも米綿にこだわるTシャツ愛好家も少なくありません。
米綿を使ったシャリ感がある本来のTシャツを作るために、コストが高くなっても米綿を使うケースもあるのです。
また、特に白いTシャツは小さな夾雑物が目立ちやすいという特徴があります。
そのため、美しい純白を表現したい場合には、機械摘みで夾雑物が混入しにくく、なおかつ繊維長が長くて生地の表面がきれいに見えるオーストラリア綿を使用することもあります。
コスト面だけでなく、Tシャツの特性を考慮しながら、綿を選ぶということもTシャツ作りにおいては非常に重要です。
いかがでしたか?同じ綿花でも、国によって特徴が異なるなんて面白いですよね。Tシャツを着る際には、白い綿花が咲き乱れる異国の綿畑に思いをはせてみるのも良いかもしれません。
「良いTシャツは良い綿花選びから」。 United Athleでは、それぞれの特徴や相場、地政学的な条件にいたるまでこと細かに把握し、コストや品質に合わせてどこの綿を使うかというところまでこだわってTシャツを作っています。 普段なかなか意識しないことだと思いますが、目に見えない労力が1枚のTシャツに詰まっているのです。