比類なき歌声とどこか懐かしく心地良いメロディ、そしてほんのり忍ばせた毒気で、Z世代を中心に熱い支持を集めるにしな。作詞・作曲からヴィジュアル、アーティストグッズの制作ディレクションまで幅広く手掛ける新世代の気鋭ミュージシャンだ。しばしば巷で、“エモい”と評価される彼女の作品の原点には一体なにがあるのだろう。自身がプロデュースしたコラボデザインへの想いを交えながら、創作の核心を訊いた。

─にしなさんの楽曲はよく“エモい”と形容されますが、作品のどこからエモーショナルなエッセンスが生まれると考えますか？
にしな　正直なところ意識しているわけではないし、そもそも“エモ”がどういったものか自分ではわからないんです。客観的に見ると、わたしの声質と過去の音楽経験がそういった評価に繋がっているのかも、とは感じますけどね。昔の歌謡曲が好きだから、いつの間にか懐かしさとか“エモさ”みたいなものがにじみ出ているのかなって

─今回のコラボアイテムのデザインもまさに“エモ”でしたね。写真はご自身で撮影されたものと伺いました。
にしな　この写真は香川県の直島で友人の家の飼い猫を撮ったものです。すごく不思議な家で、夜になるとピンクにライティングされていたんです(笑)。当然写真も全体がピンクになっていたんですけど、その色調を反対側のグリーンに思いきり補正したのがこれ。防犯カメラの映像みたいな色合いとかフィルムカメラの質感がすごく気に入っています。それと、今回はDTFという技法でプリントしているんですが、使い込んでいくといい感じにひび割れたり味が出たりするらしいんですよ。わたし自身、ヴィンテージの質感や雰囲気が好きなんですが、そういったところが“エモ”な感じになっているのかもしれませんね

─このアイテムを通じてどんなことを伝えたいと考えていますか？
にしな　クリエイティブってすごく自由なことだなって思うんです。今回のアイテムでいえば、あえて写真の色相を逆にしてもいいし、新しいプリント技法を試したっていい。音楽でいえばバラードでもポエトリーなラップでもジャンルレスにやってもいい。なにかにとらわれずに、ラフに動けることってすごく大事なことだと思うんです。こういった想いが、このパーカや楽曲から伝わったらいいなって思ってます

─にしなさんの普段のファッションスタイルは？
にしな　古着とかオーバーサイズとか、カジュアルでラフな感じが好きです。創作全般でこだわっていることと同じかもしれないですね。このパーカはデイリーにゆるく着たり、レコーディングで気合を入れたいときに着たり、あえてアクセサリーをたくさん重ねてドレッシーに着たり、わたしの日常の中のいろんなシーンで楽しめたらいいなって思っています

─今回はビッグシルエットの5204-01を採用しました。
にしな　下の方に重みが出るようなシルエットと大きくて包まれているような安心感が好みでした。今回のコラボでもわたしのアーティストグッズでもそうなんですが、こうやってなにかを作るときってまずは自分がワクワクできるもの、自分が使いたいと思えるものを作るのが一番だと思うんです。せっかくならお洒落着として外に着ていけるようなものがいいなって。好きなアーティストのグッズが日常にあったら素敵じゃないですか。音楽も同じで、気分がちょっと下がったときでもお気に入りの曲や服さえあれば、無敵になれると思うんです

─では最後に、アーティストとして最も大切にしていることを教えてください。
にしな　まわりの人を大切にすること。振り返ってみると、今わたしがこうしていられるのも友人のおかげなんです。子供の頃ミュージシャンになりたいと言っていた友人がいて、その子の背中を追いかけてきたからこそ今ここにいるわけですし、似たような志を持った友人が奮闘している姿を見て自分の活力にもなりました。憧れのミュージシャンはたくさんいるけど、今のわたしをリアルに形作ってくれたのは身のまわりにいる家族や友人、仕事仲間なんです。だからこそ、一番大事にしなきゃなって思うんですよね